最終更新日:2023.10.27
寝付きが悪く日中に強い眠気を感じている場合は、「入眠障害」かもしれません。
入眠障害は不眠症の一つで、悩んでいる人が一番多い症状とも言われています。入眠障害は寝付きが悪くなるだけでなく、眠りを浅くし睡眠全体の質を低下させる大きな要因です。
今回は、睡眠アドバイザーとしての知識を織り交ぜながら、入眠障害の症状や原因、改善方法などを詳しく解説していきます。寝付きの悪さに悩んでいる人はぜひ参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品の開発や販促に12年以上携わる中で、ストレスや不安感から睡眠不足に悩まされ続けた自身の睡眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士 中級」の資格を取得。
自らの知識と経験を基に機能性表示食品「睡眠体験」を開発するとともに、多くの悩める方々へ睡眠栄養指導士として睡眠の改善に関する情報を随時発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
寝付きが悪い日が続き、日中に強い眠気を感じて仕事や勉強に影響を及ぼしている場合は、入眠障害を疑った方が良いでしょう。
入眠障害の明確な基準はありません。しかし、ベッドや布団など寝床に入ってから30分~1時間経過しても寝付けない日が週に3回以上あり、それが1カ月以上続いている場合は入眠障害である可能性が高いと言えます。
入眠障害は、不眠症の一つです。不眠症には、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害の4つの症状があります。
不眠症の症状
※出典:睡眠障害/Vol.56 No.10. 2016心身医
これらの症状が3カ月以上続いている場合は「慢性不眠症」、3カ月未満の場合は「短期不眠症」と診断されます。
入眠障害による主な影響は、単に睡眠時間が短くなるだけではなく、睡眠の質が低下することです。寝付きが悪くなると睡眠全体のリズムが狂って眠りが浅くなったり、寝ている途中に目覚めることが増えたりといった影響が表れ、日中に強い眠気を感じることや疲れ、だるさを感じることが多くなるでしょう。
入眠障害などの不眠症は、様々な病気の発症リスクを上昇させることが明らかになっています。中でも糖尿病の発症リスクは高く、7~8時間睡眠をしている人に比べて、5時間未満しか眠っていない人は2.51倍、6時間未満の人は1.66倍発症率が高いことが調査により分かりました。
不眠症による睡眠不足が与える悪影響として、疲労やイライラを感じることが増える、筋肉が痛くなる、集中力や認知機能が低下することなどが挙げられます。ある調査では、睡眠の満足度が低いほど抑うつ傾向が強くなることも明らかになりました(※)。
※:睡眠障害の社会生活に及ぼす影響/Vol.47 No.9. 2007心身医
入眠障害は、複数の要因が絡み合って引き起こされることが多い症状です。特に、ストレスの蓄積は入眠障害の主な原因となっています。
それでは、入眠障害になる原因をみていきましょう。
寝付きが悪くなる代表的な原因がストレスです。
ストレスがたまるとホルモンの一つであるセロトニンが不足します。“幸せホルモン”とも呼ばれるセロトニンは、朝日を浴びることで分泌がスタート。日中に分泌されたセロトニンは、夕方になると睡眠を促す作用をもつホルモン・メラトニンの分泌を始めます。
メラトニンが十分に分泌されると、寝付きが良くなって睡眠の質も向上し、眠りによる疲労回復効果などを実感できるようになるでしょう。
しかし、不規則な生活やストレスの影響などによりセロトニンの分泌量が減少すると、メラトニンの分泌量も少なくなって寝付きが悪くなり、翌日の活動にも影響を与えます。
また、セロトニンには、自律神経の「交感神経」と「副交感神経」が適切に切り替わるように手助けをする作用も。セロトニンが不足すると自律神経がバランスを崩し、寝る時間になっても交感神経が優位な興奮状態が続いて入眠障害を引き起こすのです。
自律神経とは
ぐっすり眠れない人急増中?それはセロトニン不足が原因かも… >>詳しく見る
病気が入眠障害の原因となる場合も少なくありません。内服している薬の副作用で眠れなくなる場合もあるため、不眠の症状が続いている場合は医師に相談してみましょう。
入眠障害の原因になりやすい主な病気として、以下のものがあります。
レストレスレッグス症候群は、夕方から夜にかけて脚にムズムズとした感覚や虫が這うような感覚が出現し、「脚を動かしたい」という欲求に襲われて眠れません。40代以上の女性に多いとされ、鉄分不足が発症原因の一つに挙げられます。
アレルギー性鼻炎は夜間から早朝にかけて症状が悪化することが多いと言われています。アレルギー性鼻炎患者を対象に行われた睡眠調査では患者の63%が睡眠の質の悪さを感じ、特に入眠困難が示唆される結果が明らかになりました(※1)。
糖尿病の人は、睡眠障害を引き起こしやすいことが指摘されています。ある調査では、糖尿病外来を受診した人のうち約40%に睡眠障害があり、中でも入眠困難を訴える患者が多いことが報告されました(※2)。
うつ病と睡眠障害には深い関連性があり、うつ病の病相期では入眠障害が73.3%、熟眠障害が89.9%、全体として94.1%以上の患者に何らかの睡眠障害が認められたという調査結果があります(※3)。
ほかにも不安障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、さまざまな精神的疾患が入眠を妨げる要因となります。
※1:本間あや. "アレルギーと睡眠を制御する体内時計." 日本鼻科学会会誌 60.1 (2021): 101-102.
※2:清水夏恵, 村松芳幸, and 成田一衛. "糖尿病患者の睡眠障害について (<特集> 内分泌・代謝疾患の心身医療)." 心身医学 53.1 (2013): 29-35.
※3:精神疾患における睡眠・覚醒リズムの評価とその意義/精神経誌(2010)112巻9号
女性に多い入眠障害の原因には、女性ホルモンの増減が関係している場合も。生理前に分泌量が増加する女性ホルモンの1つ「プロゲステロン(黄体ホルモン)」には、体温を上昇させる作用があります。
スムーズな入眠のためには、体の深部体温(脳や臓器など体の深い部分の体温)が低くなることが大切。そのため、プロゲステロンの作用で体温が高い状態が続くと、寝付きが悪くなります。
また、40代以降の女性は、更年期による女性ホルモンの分泌量低下が入眠障害の原因である場合も少なくありません。女性ホルモンの分泌量が減少すると、自律神経がバランスを崩しやすくなり、夜になっても交感神経が優位な状態が続きます。ほかにも更年期障害の症状であるホットフラッシュや強い不安感など、眠れなくなる要因が重なることで入眠障害を引き起こすのです。
コーヒーやお茶、チョコレートなどに含まれるカフェインの覚醒作用は効果がなくなるまでに時間がかかるため、夕方以降に摂取すると就寝時間になっても眠れなくなることがあります。
また、アルコールは一時的に入眠を促しますが、その後の覚醒作用によって目が覚めて眠れなくなったり、眠りが浅くなったりといった影響を与えます。
眠れないことに不安や焦りを感じて、寝るためにとる対処行動が余計に入眠障害を悪化させる可能性が高いことが、大学生を対象に実施された調査によって報告されています(※)。
※:入眠障害と入眠時の対処行動の関連/行動医学研究 Vol.17,No.1
不規則になりがちな毎日でも、睡眠の質を高めて深い眠りにつく方法 >>詳しく見る
では次に、入眠障害を改善するための具体的な対策法をご紹介します。
就寝時間になったからといって、眠気を感じていないにも関わらず寝床に入ると、寝室や寝具などが「眠れない場所」として意識に刻み込まれてしまいます。その結果、寝室や寝具に入ることで入眠障害が悪化する場合も。寝床へ入るのは、眠気を感じた時だけにしましょう。
寝付けないままベッドや布団の中にいると、眠れないことに対して焦りや不安を感じやすくなって余計に目が冴えます。寝床に入っても20分以内に眠れなければ、一度寝床から離れるのも入眠障害を改善する手段です。寝床の外で読書や眠りを誘うハーブティーを飲むのも良いでしょう。
寝付けない時は、つい時計やスマホで時間を確認しがち。しかし、時間を確認することで焦りや不安が生じて余計に眠れなくなる可能性が高くなります。睡眠で大切なのは長さよりも質であることを意識して、時間のことは気にしないようにしましょう。
昼寝は、睡眠不足による睡眠負債を解消するためや、午前中に蓄積した疲労を回復するのに効果的です。しかし、長時間の昼寝は夜の睡眠時間に影響を与えて、入眠障害の原因となります。昼寝の効果を最大限にいかすためには、正午~午後3時の間で10分~20分程度とるようにしましょう。
温かい飲み物を摂取すると体温が上昇し、そこから下がっていく過程で眠気を感じやすくなります。ホットミルクやリラックス効果が高いカモミールのハーブティーなど、カフェインを含まない飲み物をゆっくりと少しずつ飲むのがおすすめです。
アロマの香りの中でも、特にリラックス効果が高いことで知られる「ラベンダー」、ストレスを軽減させて心を穏やかにする「ベルガモット」は、入眠を促す効果が期待できます。ティッシュやコットンに精油を一滴たらして、枕元などに置いてみましょう。優しい香りに包まれて、リラックスした気分で眠りにつけるはずです。
寝る前に軽いストレッチやヨガのポーズを行うと、身体の緊張がほぐれて副交感神経が優位になります。特にヨガは深い呼吸を意識して行うため、リラックス効果抜群。1日の疲れをリセットできて、寝付きが良くなる効果抜群です。
寝付きが良くなるストレッチ(目安:5回)
今回は、入眠障害の症状や原因、改善方法をご紹介しました。
適切な対処法で入眠障害を改善すれば、睡眠の質が向上して生活習慣病やうつ病などの発症リスクを下げられます。反対に、入眠障害をはじめとした不眠による睡眠不足は、心身の健康に悪影響を与えて健康リスクを上昇させるだけでなく、居眠り運転や仕事中の重大な事故などを引き起こす恐れも。
寝付きが悪い日が週に3回以上あり、翌日の昼に支障があるほど強い眠気を感じるような状態が長く続く場合は、一度医師へ相談してみましょう。