最終更新日:2023.08.01
睡眠時間は、人によって大きな差があります。「自分は5時間眠れば大丈夫」という人もいれば、「休日に8時間以上寝だめしても寝足りない」と睡眠不足を感じる人もいるでしょう。
ほかにも「寝床にいる時間は長くても寝ている途中で目がさめて、しっかり眠れた気がしない」という人も多いかもしれません。
「理想の睡眠時間は8時間以上」と長年言われてきましたが、実はそうとは限らないことが研究によって明らかになってきました。
そこで今回は、睡眠アドバイザーとしての知識を織り交ぜながら「理想的な睡眠時間の長さ」についてお届けしたいと思います。
自分の睡眠時間の短さ・長さに不安や疑問を抱いている人、休日に寝だめしても寝足りないと感じている人は、満足度が高い睡眠時間を得るためにもぜひ最後までお読みくださいね 。
この記事の執筆者
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品の開発や販促に12年以上携わる中で、ストレスや不安感から睡眠不足に悩まされ続けた自身の睡眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士 中級」の資格を取得。
自らの知識と経験を基に機能性表示食品「睡眠体験」を開発するとともに、多くの悩める方々へ睡眠栄養指導士として睡眠の改善に関する情報を随時発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
「世界一睡眠時間が短い民族」と言われている、日本人。果たして本当にそうなのでしょうか?
厚生労働省が公表した「令和3年度 健康実態調査結果の報告」によると、1日の睡眠時間が「6時間以上~7時間未満」という人が最も多く、全体の34.7%を占めています。次いで「5時間以上~6時間未満」となっていて、“理想の睡眠時間”と言われている「8時間以上」の人は全体の約10%となっています。
日本人がいかに眠らない民族であるのかが分かるデータが、経済協力開発機構(OECD)の2021年版調査によって判明しています。
この調査は世界各国の平均睡眠時間を比較したもので、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟国30カ国の中で最も短時間。さらに、日本人女性の平均睡眠時間は7時間22分よりも13分短く、世界一睡眠時間が短いということが明らかになりました。
女性の睡眠時間が短い理由として、女性ホルモンのバランス変化による身体への影響や、家事や介護の負担が大きいということが考えられています。
また、「令和3年度 健康実態調査結果の報告」では「睡眠時間のとれている度合い」についての設問もあり、「睡眠時間が足りなかった」と回答した人は約20%、「睡眠全体の質に満足できなかった」と答えた人は約35%、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」と回答した人は約45%にも上りました。
この結果を見ると、8時間以上眠っても睡眠の質に満足できていない人が多いことが分かります。睡眠時間の長さ=睡眠の質の高さとは限らないようです。
昔から「理想的な睡眠時間は8時間」と言われてきたにも関わらず、8時間以上の睡眠をとっても満足感を得られていない人が多いのはなぜでしょうか?
実は、最適な睡眠時間とされている「8時間」という数字に、明確な医学的根拠はないとされています。そこで、理想的な睡眠時間の具体的な目安となりそうなのが、アメリカ睡眠学アカデミーが推奨している睡眠時間です。
アメリカ睡眠学アカデミーが推奨する睡眠時間
理想的な睡眠時間は個人によって大きな差があるため、一概に「7時間が最適」とは言えませんが、日常的に7時間前後の睡眠をとっている人は生活習慣病になるリスクが低いという研究結果が出ています(※)。
※出典:時間栄養学による生活習慣病の予防 体力科学 第63巻 第3号 293-304(2014)
ちなみに、厚生労働省健康局が公表した「健康づくりのための睡眠指針2014」では、睡眠時間について以下のように述べています。
第5条.年齢や季節に応じて、昼間の眠気で困らない程度の睡眠を
睡眠時間は季節によっても変動することが分かっていて、ドイツの研究グループによって冬場は睡眠時間が夏よりも30分間程度長くなったという実験結果が報告されています。
最適な睡眠時間の長さを考えるうえで大切なのは、日中にだるさや眠気を感じない程度の時間を確保するということなのです。
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それでは睡眠時間が5時間以下と短い場合や、逆に8時間以上と長い場合は健康にどのような影響を与えるのでしょうか?
ある研究で、健康な人が一晩だけ睡眠時間を8時間から4時間に短縮した場合の影響を調べると、睡眠時間が短くなると食欲を抑制するホルモンであるレプチンの分泌が減少し、逆に食欲を高めるホルモンのグレリン分泌量が増加するという結果が出ました(※1)。
睡眠不足によってグレリンが分泌された場合は、高脂質・高カロリーな食べ物を好む傾向があり、その結果、高血圧や糖尿病、肥満といった生活習慣病を発症するリスクが高まります。
かといって8時間以上眠れば良いのかと言えば、そうではありません。睡眠時間を9時間以上とっている70歳以上の人は、認知機能が低下するという研究結果が報告されています(※2)。
また、9時間以上の過剰な睡眠が心血管疾患やそのほかの慢性疾患による死亡リスクを上昇させるということが判明しているだけでなく、睡眠時間が9時間以上の女性は糖尿病によって死亡する可能性が高いことも判明しています(※3)。
以上の結果を見ると、睡眠時間は短すぎても長すぎても、健康に悪い影響があるようです。健康寿命を延ばすためには、7時間前後の睡眠時間が最適であると言えるでしょう。
※1 出典:糖代謝における睡眠の重要性/慶應保健研究,37(1),023-028,2019
※2 出典:Devore et al. Sleep duration in midlife and later life in relation to cognition. J Am Geriatr Soc. 2014;62:1073-81.
※3 出典:Kim Y, Wilkens LR, Schembre SM, Henderson BE, Kolonel LN, Goodman MT. Insufficient and excessive amounts of sleep increase the risk of premature death from cardiovascular and other diseases: the Multiethnic Cohort Study. Prev Med. 2013 Oct;57(4):377-85.
「健康づくりのための睡眠指針2014」でも記されているように、睡眠時間の長さは加齢とともに短くなっていきます。
その原因の一つが“睡眠ホルモン”と呼ばれるメラトニンの分泌量低下です。メラトニンの分泌量は1歳から3歳頃までが最も多く、思春期以降はだんだん減少していきます。70歳以上になると、その分泌量はピーク時の10分の1以下にまで低下!加齢とともに睡眠時間が短くなるのは、自然なことなのです。
メラトニンには神経細胞を守る効果があり、強い抗酸化作用をもっています。また、マウスによる実験では、メラトニンを投与したマウスの寿命を延ばすという結果が出ました。逆に、メラトニンの夜間分泌量が低下すると、睡眠への悪影響だけでなく色々な病気を引き起こす可能性が高いことが指摘されています。
メラトニンの分泌量不足によって発症が懸念される病気として挙げられているのは、アルツハイマ ー病や冠動脈性心疾患、乳がんや前立腺がんです。また、2型糖尿病の発症リスクを高めるとも言われています(※)。
理想的な睡眠時間と質が高い眠りを得るためには、メラトニンの分泌量を増やすことが大切です。そのためは、メラトニンの原料となる「セロトニン」というホルモンを増加させることが肝心。セロトニンが朝から昼間にかけて十分に分泌されると、夕方にメラトニンを分泌し始めます。
トリプトファンはセロトニンの原料となるアミノ酸で、プロセスチーズやキウイフルーツ、ブロッコリー、ケール、鶏ささみなどに多く含まれています。
朝日を浴びることでセロトニンの分泌が促進されます。
一定のリズムで同じ動きをすることで、セロトニンの生成が活発化します。
理想的な睡眠時間のためにも、セロトニンを増やしメラトニン分泌量を増やすことを意識してみませんか。
※出典:メラトニンとエイジング 比較生理生化学Vol. 34, No. 1 (2017)
セロトニンを増やし、睡眠の質を高める方法とは? >>詳しく見る
さまざまな研究結果から、最適な睡眠時間は7時間前後であることが分かりました。しかし、それはあくまで目安。人によっては5時間程度でも大丈夫だったり、8時間は必要だったりと個人差があるため、日中の眠気で困らない程度の睡眠をとることを第一に最適な睡眠時間を確保しましょう。
睡眠時間の長さにこだわるあまりに、眠気を感じてないのに寝床にいる時間を長くするのは逆効果。ベッドや布団の中で眠れないまま過ごすと、そこが眠れない場所だという印象が記憶に残り、いざ寝ようと思っても寝られなくなります。「眠気を感じたらベッド(布団)に入る」ことをおすすめします。
理想的な睡眠時間と質の高い眠りで、生活習慣病のリスクを回避しましょう!