最終更新日:2023.05.22
塾や部活、大学受験や就職に向けての活動、SNSのチェックに友達とのLINE…。高校生の毎日は、とっても多忙!スマホでの動画視聴やオンラインゲームなどのために睡眠時間を削っている高校生も少なくないでしょう。
また、高校へ進学すると通学時間が長くなったり、朝補習があったりして中学生の頃よりも早く家を出なければいけない日が増え、睡眠時間が足りないという人もいるのではないでしょうか。
しかし、睡眠不足は高校生の身体や心に多大な悪影響を与えます。「たかが睡眠不足」が、将来を左右するほどの重篤な事態を招く可能性も少なくないのです。
今回は睡眠アドバイザーとしての立場から、高校生にとって理想の睡眠時間や、大学受験にも影響を及ぼす学力と寝不足との関係性などについて、睡眠に関係するデータを基に詳しくお伝えします。
「高校生の子どもが寝不足で心配」という保護者の方や、「眠気で勉強に身が入らない」「授業中につい居眠りしてしまう」「眠ろうとすると目が冴えて眠れない」「将来のことを考えると不安で寝られない」など、睡眠に関する悩みをもつ高校生の皆さんに役立つ情報をお届けしますので、最後までお読みくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品業界で数々の商品開発や販促に12年以上携わる。
睡眠不足に悩まされ続けた自身の不眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士」の資格を取得し、自らの知識と経験を基に機能性表示食品に登録された睡眠向上サプリ「睡眠体験」を開発。
現在、睡眠栄養指導士として多くの悩める方々へ睡眠の改善に関する情報を発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
総務省が行った「令和3年社会生活基本調査」によると、高校生全体の平日の平均就寝時間は23時38分で、中学生の平均就寝時間である23時12分よりも30分程度遅くなっています。
高校生の平均就寝時間 | |||
---|---|---|---|
全体 | 女子 | 男子 | |
平日 | 23時38分 | 23時37分 | 23時39分 |
土曜日 | 23時40分 | 23時37分 | 23時43分 |
日曜日 | 23時27分 | 23時25分 | 23時30分 |
※「令和3年社会生活基本調査」を基に作成
ちなみに、高校1年生の平均就寝時間は23時22分、高校3年生では23時44分となっていて、学年が上がるほど就寝時間は遅いことが明らかになりました。
次に、高校生の平日の平均起床時間を見てみましょう。
高校生の平均起床時間 | |||
---|---|---|---|
全体 | 女子 | 男子 | |
平日 | 6時46分 | 6時37分 | 6時53分 |
土曜日 | 8時01分 | 8時08分 | 7時55分 |
日曜日 | 8時33分 | 8時16分 | 8時48分 |
※「令和3年社会生活基本調査」を基に作成
高校生の平日の平均起床時間は午前6時46分ですので、平日の平均睡眠時間は7時間に少し足りないことが分かります。高校生にとって、7時間未満の平均睡眠時間は身体や心にとって適切なのでしょうか?
ある調査では、「学校がある日の午前中、授業中にも関わらず眠くて仕方がないことがありますか?」という設問に対して、「よくある」と回答した高校生は36.6%、「ときどきある」と答えた学生は41.9%にも上りました。
※平成26年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」-睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査-を基に作成
このことから、7時間に満たない睡眠時間では、眠気のせいで授業に集中できていない可能性が高いことがうかがえます。
それでは、高校生にとって理想的な睡眠時間の長さは、何時間程度なのでしょうか?
米国睡眠医学会が推奨する13歳~18歳の青少年がとるべき睡眠時間は、8~10時間。ということは、7時間に少し満たない高校生の平均睡眠時間では、睡眠が足りていないということです。
高校生が寝不足になる原因には、部活や塾が忙しかったり、SNSやオンラインゲームなどに費やす自由時間を確保するためだったりといった理由が考えられます。しかし、中には「ベッドや布団に入っても眠れない」という不眠症状によって、睡眠時間が不足している高校生も少なくないでしょう。
実は、不眠症をはじめとした睡眠障害に悩まされている高校生は思っているより多いのです。
高校生1,000人を対象に行ったある調査で、不眠症傾向にある学生は全体の21.3%にものぼることが分かりました。
不眠症は睡眠障害の一つで、「入眠障害(寝つきが悪く、寝床に入って30分~1時間以上眠れない)」、「中途覚醒(眠りが浅く、眠っている途中で何度も目が覚める)」、「早朝覚醒(起きようと思っている時間よりも2時間以上早く目覚めてしまい、その後眠れなくなる)」、「熟眠障害(眠りが浅く、睡眠時間の割にしっかり眠った実感がない)」といった4つの症状があります。
不眠症傾向にある高校生の就寝時間は平均24時47分と遅く、平均睡眠時間は6.1時間程度。この調査では、不眠傾向にある高校生はうつ気分が強く登校意欲が低いことも明らかになっています(※)。
また、高校生に多いとされる睡眠障害が「睡眠相後退症候群」です。睡眠相後退症候群は朝まで寝つけず午後まで覚醒できない「遅寝遅起き」の状態が固定して、日常生活に支障をきたします。ほかに高校生が罹患しやすい睡眠関連の病気には、必要な睡眠時間よりも短い時間しか眠らないことで発症する「睡眠不足症候群」や、日中に耐えがたい眠気が慢性的に起こる「ナルコレプシー」があります。
いずれの睡眠障害も、日中に強い眠気が生じることで集中力が散漫になったり、記憶力が低下したり、成長ホルモンの分泌量が減少したりと身体に深刻なダメージを与えるのです。
※:笹澤吉明. 小中高生における不眠症の有病率とその心理社会要因の縦断的疫学調査.Diss.琉球大学,2009.
不眠症「入眠障害」の原因と改善方法|寝付きが悪い時の対処法とは? >>詳しく読む
高校生で不眠傾向の人が増える原因として、中学生の頃よりも悩みの種類が増えてストレスや不安感を抱きやすくなることが考えられます。
内閣府が15~19歳を対象に実施した「令和元年度 子供・若者の意識に関する調査」によると、「社会生活や日常生活を円滑に送ることができなかった経験があった」と回答した人は22.1%。13~14歳では8.5%であり、15歳以上で大幅に増えています。
※内閣府「子供・若者の意識に関する調査(令和元年度)」を基に作成
また、社会生活や日常生活を円滑に遅れなかった理由として最も多かったのが「人づきあいが苦手だから」で、15~19歳の高校生世代では人間関係に悩みを抱えている人が多い傾向にあることが明らかになりました。
他にも、進路への迷いや大学受験への不安感、恋愛関係、金銭問題など、高校生は沢山のことに頭を悩ませています。
睡眠時間と学業成績の関係性について、興味深い調査結果があります。
13~19歳の学生を対象にした調査で、睡眠時間が短い学生ほど学業成績が悪いという結果が明らかになりました。さらに、睡眠健康が悪化している学生は欠席率が高いことや、夜間の勉強時間を確保するために夕方に仮眠をとる人ほど日中の眠気を強く感じる傾向があることや、イライラしやすいことも分かっています(※)。
寝不足による心身へのダメージは、学力低下だけではありません。慢性的な睡眠不足によって、将来的に深刻な健康被害へつながる可能性が上昇することが懸念されます。
※:浅岡 章一,福田 一彦,山崎 勝男,子供と青年における睡眠パターンと睡眠問題,生理心理学と精神生理学,2007,25巻,1号,p.35-43
寝不足が続くと、肥満のリスクが高まります。そのメカニズムは、睡眠時間が少ないと食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌が減少し、逆に食欲を増進するホルモン「グレリン」の分泌量が増加するからです。 恐ろしいことに、睡眠不足によって分泌されたグレリンは、高カロリー・高脂質な食べ物への欲求が強くなる傾向があるため、ますます肥満化が進みます。
睡眠には「自律神経」という、体内の様々な機能を自動的に調整する神経が関係しています。自律神経には、日中の活動的な時に活性化する「交感神経」と、睡眠時やリラックスしている時に優位に働く「副交感神経」があります。
睡眠不足が慢性化すると、夜になっても交感神経が活発な状態が続きます。交感神経には男性ホルモンを分泌させる作用があるため、男性ホルモンが増えることで皮脂分泌が過剰になり、ニキビができやすい状態に…。 また、成長ホルモンには肌の状態を整える作用がありますが、睡眠の質が低下すると成長ホルモンの分泌量が低下して、ニキビをはじめとした肌トラブルを引き起こしやすくなるのです。
身長の伸びに大切な役割を果たす成長ホルモンは、深い眠りであるノンレム睡眠の時に多く分泌されます。睡眠時間が足りなかったり、睡眠の質が低い日が続いたりすると成長ホルモンの分泌量が低下して、身長が伸びにくくなる可能性が高くなります。成長期の高校生は、十分な睡眠時間を確保することが重要なのです。
様々な研究によって、寝不足と心の病気には深い関係性があることが明らかにされています。平均年齢16歳の若者161人を対象に行ったレム睡眠と抑うつ状態についての分析では、レム睡眠の質の低下と断片化によって抑うつ状態が引き起こされることが示唆される結果が出ました(※)。
睡眠不足が精神状態を悪化させる原因の一つとして考えられているのが、代謝の促進や免疫抑制作用がある副腎皮質ホルモン「コルチゾール」の分泌過剰です。コルチゾールはストレスを感じると分泌されるホルモンで、朝は分泌量が増え、ノンレム睡眠時に分泌量が低下します。睡眠の質が低下してノンレム睡眠の時間が減少すると、コルチゾールの分泌量が増加して抑うつ傾向が強くなります。
今回は、高校生の睡眠についてお届けしました。大学受験や将来に向けて具体的な活動を始める高校生にとって、しっかり眠ることはより良い結果をもたらすために必要です。
塾や部活、あるいはアルバイトなどで時間のやりくりが大変な毎日でも、睡眠時間だけは十分に確保するようにしましょう。
睡眠不足による身体や心の不調を感じたら、まずは規則正しい生活を送るように心掛けて。そして、毎日7時間30分以上の睡眠時間を確保することを目標に、一日のスケジュールを組むことをおすすめします。