最終更新日:2024.05.20
学校の授業だけでなく、塾や部活など何かと忙しい中学生。家での勉強時間や、スマホでの動画視聴、オンラインゲームといった自由時間を確保するために、睡眠時間を削っている中学生も少なくありません。
しかし、身体も心も成長過程にある中学生が睡眠を削るのは、とても危険なことなのです!
今回は睡眠アドバイザーとしての立場から、中学生の平均睡眠時間や睡眠に関する様々なデータを基に、中学生にとっての睡眠の大切さや勉強・学力との関係性、さらには成績アップに役立つ効率のいい勉強方法まで、まとめてお届けしたいと思います。
夜更かししがちな中学生のお子さんをもつ保護者の方や、睡眠不足で勉強に集中できずに悩んでいたり、ニキビなど肌の悩みを抱えたりしている中学生の皆さんは、ぜひ最後までお読みくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品業界で数々の商品開発や販促に12年以上携わる。
睡眠不足に悩まされ続けた自身の不眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士」の資格を取得し、自らの知識と経験を基に機能性表示食品に登録された睡眠向上サプリ「睡眠体験」を開発。
現在、睡眠栄養指導士として多くの悩める方々へ睡眠の改善に関する情報を発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
総務省が行った「令和3年社会生活基本調査」によると、平日の平均就寝時間は中学生全体で23時12分、女子は23時17分で男子の平均就寝時間である23時06分よりも若干遅いことが明らかになりました。
中学生の平均就寝時間 | |||
---|---|---|---|
全体 | 女子 | 男子 | |
平日 | 23時12分 | 23時17分 | 23時06分 |
土曜日 | 23時16分 | 23時15分 | 23時16分 |
日曜日 | 23時01分 | 23時06分 | 22時56分 |
※「令和3年社会生活基本調査」を基に作成
ちなみに平日の平均起床時刻は午前6時45分で、このことから平均睡眠時間は7時間30分程度と考えられます。
中学生の平均起床時間 | |||
---|---|---|---|
全体 | 女子 | 男子 | |
平日 | 6時45分 | 6時43分 | 6時47分 |
土曜日 | 7時46分 | 7時58分 | 7時35分 |
日曜日 | 7時59分 | 8時05分 | 7時54分 |
※「令和3年社会生活基本調査」を基に作成
果たして、この睡眠時間は中学生にとって十分な時間なのでしょうか?
ある調査で中学生に「睡眠時間に対する自己評価」を尋ねたところ、「睡眠時間が十分ではない」と答えた生徒の数が24.8%に上りました(※)。
満足できる睡眠時間が得られていないと、どのような影響があるのでしょうか?次は、睡眠不足が中学生の心身に与える影響についてお伝えします。
※:平成26年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」 -睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との 関係性に関する調査-/平成26年度文部科学省委託調査
中学生の心身は、成長過程の不安定な状態にあります。健康的な身体や精神を育むためには、睡眠時間の長さだけでなく、質が高い睡眠をとることも大切です。
しかし、塾での勉強や部活、スマホでの動画視聴やオンラインゲームといった様々な要因によって寝る時間が遅くなり、睡眠時間はどんどん削られていきます。
睡眠不足が慢性的になると、心身に多大な悪影響を及ぼしかねません。睡眠不足によって考えられる悪影響として、以下のようなものが挙げられます。
眠りには、体を休ませながらも脳は覚醒してその日に記憶したことを整理・固定する「レム睡眠」、逆に体を支える筋肉は働いていても脳は休息状態となる「ノンレム睡眠」の2種類があります。
ノンレム睡眠の中でも、入眠後の約90分後に訪れるのが最も深い眠りの時間(眠りのゴールデンタイム)で、この時間にどれだけ深く眠れるかによって熟眠度に大きな差が出てきます。
夜中までの勉強やゲームは脳を興奮させて、寝つきを悪くします。その状態では、最初に訪れるノンレム睡眠で深く眠ることができません。
その後のレム睡眠とノンレム睡眠の交替もうまくいかず、睡眠の質が低下。脳の疲労回復や記憶の整理・固定が十分に行われないせいで、せっかく勉強した内容が記憶できないという事態に…。いくら勉強しても、睡眠不足では身に付かないのです。
寝不足が続くと、肥満のリスクが上昇します。その理由は、睡眠時間が少ないと食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌が減少し、逆に食欲を増進するホルモン「グレリン」が多く分泌されるようになるから。
しかも、睡眠不足によって分泌されたグレリンは、高カロリー・高脂質な食べ物への欲求が強くなる傾向があるため、ますます太りやすくなります。
ある調査では、睡眠時間が9時間未満の生徒の中で肥満の生徒は20%、9~10時間の生徒の中で肥満の生徒は15.1%、10~11時間の生徒の中で肥満の生徒は12.1%、11時間以上の生徒の中で肥満の生徒は12.2%と、睡眠時間が9時間未満の生徒に肥満が多いという結果が出ています(※)。
※:小児の生活習慣と健康―特に肥満の予防の観点から―/富山大学大学院 医学薬学研究部 疫学・健康政策学講座
睡眠には「自律神経」と呼ばれる、生命の維持に必要な機能を自動的に調整する神経が深く関わっています。
自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2種類があり、活発な動きの時には交感神経、睡眠時やリラックスしている時には副交感神経が優位になります。
しかし、睡眠時間が足りない状態が続いていると、交感神経が優位な状態が続きます。交感神経には男性ホルモンを分泌させる作用もあるため、男性ホルモンの影響で皮脂が過剰になり、ニキビができやすくなります。
また、肌を正常な状態に整える役割を持つ「成長ホルモン」は、ノンレム睡眠の間に分泌されます。そのため、寝つきが悪かったり睡眠時間が不足したりしていると、成長ホルモンの分泌量が減少して、ニキビをはじめとした肌トラブルを引き起こしやすくなるのです。
睡眠不足の状態では“食欲増進ホルモン”グレリンの影響で、高脂質・高カロリーな食べ物を好む傾向にもなっているため、ニキビができやすい体内環境になっています。
睡眠不足は、中学生の肌にとってデメリットしかないと言っても過言ではありません。
身長が伸びるためには、成長ホルモンが十分に分泌される必要があります。
しかし、寝不足が続くと成長ホルモンの分泌量が減少するため、身長が伸びにくくなる可能性があります。身長を伸ばしたいなら、しっかり眠ることが肝心です。
睡眠不足とうつ病には深い関わりがあることが、いろいろな研究で明らかにされています。
平均年齢16歳の若者161人を対象に行ったレム睡眠と抑うつ状態についての分析では、レム睡眠の質の低下と断片化によって抑うつ状態が引き起こされることが示唆される結果が出ました(※1)。
うつ病以外にも、睡眠不足は精神状態を悪化させる可能性があります。その要因として考えられているのが、代謝の促進や免疫抑制作用がある副腎皮質ホルモン「コルチゾール」の影響です。
コルチゾールにはストレスを感じると分泌されるという特徴があり、朝は分泌量が増え、ノンレム睡眠時に分泌量が減少します。睡眠不足や質の低い眠りが続いて眠りが浅くなると、分泌量過多となって抑うつ状態を引き起こします。
また、岡山県の中学生を対象にした調査で、中学生の感情コントロールの良否と睡眠習慣には関連がみられることが示唆される結果が出ました(※2)。感情のコントロールが上手くいかなくなるとイライラすることが増え、周囲との人間関係が悪化する可能性も否めません。
※2:中学生の睡眠習慣と感情コントロールとの関連について/小児保健研究71巻3号2012-05-31,420-426
睡眠不足の症状と影響!睡眠負債のチェック項目と解消法 >>詳しく読む
米国睡眠医学会では、13歳~18歳の青少年がとるべき睡眠時間は8~10時間と推奨しています。ということは、中学生の平均睡眠時間である7時間30分は、理想の睡眠時間に若干足りません。
塾や部活、中学3年生になれば本格的な受験勉強も始まり、1日のスケジュールがぎっしり詰まっているという人も多いでしょう。
そこで「削りやすい」と思われがちなのが、睡眠時間です。しかし、睡眠時間を削ることで記憶力や集中力が低下して成績不振につながったり、日中に強い眠気を感じて勉強に身が入らなかったり、免疫力が低くなって風邪をはじめとした病気にかかりやすくなったり、と良いことは一つもありません。
勉強の効率を上げたい人ほど、しっかり睡眠をとることが大切だといえるでしょう。
次は、適切な睡眠時間を確保しつつも成績を上げられる効率的な勉強方法についてです。
記憶力や集中力を高めるために必要な睡眠時間を削らずに、ちゃんと勉強時間を確保するためにはどうすれば良いのでしょうか?その答えは、「勉強の効率を上げる」ことです。
それでは、勉強の効率を上げられる具体的な方法をご紹介します。
せっかく集中していても、スマホ画面にLINE等の通知が表示されると、そちらが気になって注意力が散漫になります。
勉強中はスマホを見えない場所に置いておく、通知音をオフにしておくなど、スマホによって集中が途切れないように工夫することが勉強の効率アップにつながります。
勉強時間や自由時間、入浴時間などのスケジュールを決め、それに沿って行動することで睡眠時間が確保できるだけでなく、生活リズムが一定になるので、自律神経が整って睡眠の質も上がります。
質が高い睡眠は成長ホルモンの分泌量増加につながるので、育ち盛りの中学生の身体には良い影響が期待できるでしょう。
スマホでの動画視聴やオンラインゲームなどは、時間を忘れてダラダラ続けてしまいがち。「あと5分だけ」が積み重なって、睡眠時間を削っていきます。また、時間を決めずに勉強するのも、集中力が続かないのでおすすめしません。
平日の夜は、塾や部活などの影響で疲れがたまっています。眠気を感じながらの勉強は、非効率的。「やっているつもり」なだけで、実際には頭に入りにくい状態です。
平日の夜は予習や復習といった基本的な勉強を重点的にして睡眠時間を確保し、疲れがとれている休日の午前中に一週間の見直しなどステップアップのための勉強をしましょう。
疲れで集中力が低下している夜は、暗記物の勉強がおすすめ。脳は眠っている間に記憶の整理や保存を行うので、覚えたことが定着しやすい傾向にあるのです。
その効果を高めるためには、質が高い睡眠を得ることが大切です。1日に暗記する目標数を決めて、覚えたらしっかり眠ることを心がけてください。
今回は、中学生の睡眠についてお届けしました。
成長期の中学生にとって、睡眠は身体的にも精神的にも大切な時間です。中学生は体力があるため、睡眠不足による体調不良を自覚しにくく、「たかが睡眠不足」と軽く考えがちです。しかし、寝不足は学力低下による成績不振、心身の成長阻害などを引き起こしかねません。
まずは、最低7時間30分以上の睡眠時間を確保することを目標に、毎日のスケジュール管理をしてみましょう。