最終更新日:2024.2.20
子供の健やかな発達のために、十分な睡眠時間を確保することは非常に重要なことです。
しかし、近年は幼児から小学生・中学生に至るまで、子供全体の睡眠時間が短くなっています。
特に2歳から5歳頃の幼児の生活リズムが夜型化し、就寝時間が遅くなることで子供の身体や心の発達に悪影響を及ぼすのではないか、と懸念する声も多く上がっています。
一日の多くを眠って過ごす乳幼児期間が終わり、幼児期に入った子供の保護者の中には「うちの子は眠りすぎなのでは」と心配する人や、逆に「あまり寝ないけれど問題ないの?」と不安な人など、子供の適切な睡眠時間が分からず頭を悩ませている人が少なくないようです。
質問サイトでも、子供の睡眠についての疑問が多く寄せられています。
幼児の一日の睡眠時間は、昼寝も必要なら、何時間と何時間必要なんですか? 昼寝ができないとか、仮眠くらいしかとれないのはよくないんですか?
引用元:Yahoo知恵袋
幼児にも睡眠サイクルがあると思いますが、理想の昼寝時間の長さはどれくらいですか?
引用元:Yahoo知恵袋
幼児の寝る時間、22時はやはり遅いですか??この4月から、子どもの寝る時間が週3日22時頃になりそうです。残りの4日は20時前後です。幼児期に22時就寝は、体に支障が出ますか?
引用元:Yahoo知恵袋
今回は、2歳から5歳頃の幼児にとって理想的な睡眠時間や、寝不足が子供の発達に与える悪影響などを、睡眠アドバイザーとしての知識を織り交ぜながら詳しく解説していきます。
小さなお子さんの睡眠に関する悩みや疑問を抱いている方は、ぜひ最後までお読みくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品業界で数々の商品開発や販促に12年以上携わる。
睡眠不足に悩まされ続けた自身の不眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士」の資格を取得し、自らの知識と経験を基に機能性表示食品に登録された睡眠向上サプリ「睡眠体験」を開発。
現在、睡眠栄養指導士として多くの悩める方々へ睡眠の改善に関する情報を発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
幼児の就寝時間は、時代の変化とともに年々遅くなっています。
日本小児保健協会が行った「幼児健康度に関する継続的比較研究」によると、幼児(1歳~6歳)の就寝時刻は午後9時台が最も多く、次いで午後10時台が多いという結果が出ています。
下のグラフは、午後10時以降に眠りにつく幼児の割合を昭和55年から平成22年まで10年ごとに比較したものです。
午後10時以降に就寝する幼児の数は平成12年にピークを迎えましたが、平成18年に発足した「早寝早起き朝ごはん」全国協議会と文部科学省が連携して「早寝早起き朝ごはん」の国民運動を推進したことにより、子供たちの生活習慣が改善されて就寝時間も早くなりました。
※特例社団法人 日本小児保健協会「幼児健康度に関する継続的比較研究」平成22年度総括・分担研究報告書を基に作成
とはいえ、4歳児と5歳児~6歳児に関して言えば、午後10時以降に就寝する子供の割合は昭和55年の約2倍に増加しています。
ライフスタイルの多様化やスマホ普及の低年齢化など子供たちを取り巻く環境が目まぐるしく変化していく中で、幼児の夜型化は今後ますます進んでいくと言えそうです。
一方、起床時間については昭和55年から平成22年まで大きな変化は見られず、最も多いのは午前7時台です。
このことから、子供たちの生活リズムが「遅寝早起き」化して、結果として総睡眠時間が短くなっていることが分かります。
米国睡眠医学会が推奨する子供の睡眠時間は、1歳~2歳は1日11~14時間、3歳~5歳は1日10~13時間(どちらも昼寝の時間を含む)です。
それでは、日本の幼児は一体何時間程度眠っているのでしょうか?
0歳~3歳までの乳幼児の睡眠時間の長さを国別に比較したデータをご紹介します。
グラフで見て分かるように、日本の乳幼児の総睡眠時間は最も短く、一番睡眠時間が長いニュージーランドとはかなりの開きがあります。
米国睡眠医学会が推奨する1歳~2歳児の睡眠時間が11~14時間であることを考えると、日本の幼児は睡眠不足気味であると言えそうです。
日本の子供たちがいかに“眠らない幼児”であるかが分かったところで、睡眠不足が子供の身体や心の発達にどのような影響を与えるのかを解説します。
2歳半から6歳までの幼児を対象に睡眠時間と認知機能との関係を追跡した調査で、6歳になるまで10時間以下の短時間睡眠であった子供は、知能検査の成績が低いということが分かりました。
特に、3歳半以前における睡眠の短さが関係することが示唆される結果が出ています。
また、幼稚園・保育所に通う5歳の子供226人を対象に行った調査で明らかになったのは、昼夜の生活リズムが不規則な子供の中には、三角形を上手に書けない子の割合が多いという事実でした(※)。
睡眠が脳の発達に影響を与えている要因の一つとして、眠っている間に行われる脳への記憶の定着があります。
睡眠には、体は休息しつつも脳は覚醒してその日に記憶したことを整理・固定する「レム睡眠」、脳を休ませながらも体を支える筋肉は働いている「ノンレム睡眠」の2種類です。
寝ている間、私たちはレム睡眠とノンレム睡眠を約90分の間隔で交互に繰り返し、目覚めの時間が近付くと徐々にレム睡眠の割合が増えていきます。
私たちは眠ってすぐにノンレム睡眠の状態となりますが、その日に記憶・経験したことをしっかりと脳に刻み付けるためには、この最初のノンレム睡眠で深く眠ることが大切です。
しかし、幼児の生活パターンが夜型化することで寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりすると、記憶が整理・固定されません。睡眠不足は、幼児の学習能力の発達にも悪影響を及ぼすのです。
※:岡田(有竹)清夏. "乳幼児の睡眠と発達." 心理学評論 60.3(2017):216-229.
レム睡眠とノンレム睡眠の違いや理想的な割合をわかりやすく解説! >>詳しく読む
子供が健やかに育つためには、成長ホルモンが十分に分泌されることが大切です。
成長ホルモンは、入眠して最初に訪れる最も深いノンレム睡眠で多量に分泌されますが、寝つきが悪かったり睡眠の質が悪かったりすると成長ホルモンの分泌量が減ってしまいます。
成長ホルモンの分泌量が足りないと、身長が伸びにくくなったり、筋肉がつきにくくなったりして子供の身体的な発達に悪影響を与えるのです。
睡眠不足は幼児の肥満化にも関係しています。
幼児の生活習慣と肥満傾向について、幼稚園と保育園に通園する3歳以上の幼児の親1867人を対象に行われた調査によって、過体重の子供は夜間の睡眠時間が10時間未満であることや、食事が不規則であること、テレビの視聴時間が1日2時間以上であることが分かりました(※1)。
睡眠時間が短いと太りやすくなる理由には、食欲抑制に関係するホルモン「レプチン」の減少と、逆に食欲を増進させるホルモン「グレリン」増加の問題が考えられます。
恐ろしいことに、睡眠不足による小児肥満のリスクは幼児期だけの問題にとどまりません。
約8000人の3歳児を対象にした研究で、3歳の時に総睡眠時間が9~10時間、8~9時間の子供は、11時間以上眠っている子どもに比べて中学1年生時点での肥満リスクがそれぞれ1.24倍、1.59倍であり、幼児期の生活習慣はその後の肥満リスクに影響を及ぼすことが分かっています(※2)。
睡眠時間の長さと幼児の運動能力の関係性を探った研究では、1日の睡眠時間が8時間未満の幼児は、8時間以上眠っている幼児に比べて運動能力検査の点数が低くなりました。
その理由として、睡眠時間が8時間未満の子供は、睡眠時間が足りないために日中に眠気やだるさを感じたり、注意力や集中力が散漫になったり、発達の遅れで運動能力が低下している可能性が高いと考えられます(※3)。
幼児期の寝不足は、その後の人生にも影響を与えるほど、大きな問題なのです。
※1:渡辺悦子, 李廷秀, and 川久保清. "幼児の過体重に関連する生活習慣とその重積の影響." 日循環器予防誌 46 (2011):165-173
※2:岡田(有竹)清夏. "乳幼児の睡眠と発達." 心理学評論 60.3(2017):216-229.
大人であっても、寝不足の状態では集中力や注意力に欠けたり、感情的になることが増えたりしますが、それは子供にとっても同じことです。
就床時刻が22時以降の幼児と21時以前の幼児の行動を比較した結果、22時以降に眠る子供の方が攻撃的な行動が多い傾向にあることが分かりました(※1)。
また、3歳半児をもつ母親への調査結果を基に22時以降に就寝する子どもの性格や行動について分析したところ、「落ち着きがない」「ささいなことで怒りやすい」「大泣きしてなかなか泣き止まない」「言い出したら聞かない」といった感情のコントロールがきかない子供が多いことも明らかになっています(※2)。
これらのことから、睡眠不足が幼児の性格形成や心の発達にも深く関連していると言えるでしょう。
※1:古谷真樹, 山尾碧, and 田中秀樹. "幼児の夜ふかしと主養育者に対する睡眠教育の重要性." 小児保健研究 67.3 (2008): 504-512.
※2:瓜生淑子. "夜型生活の子どもの発達への影響:3歳児の生活実態調査の分析から." 奈良教育大学紀要, 人文・社会科学 55.1 (2006): 53-64.
幼児の生活リズムは、保護者の生活リズムに大きく左右されます。
近年は、小学校に入る前の幼児の就寝時間も遅くなっていることが明らかになっています。
夜10時以降に就寝する乳幼児の割合が3歳児では1980年は22%でしたが、2000年には52%と約2倍になり、5歳児・6歳児は10%から40%と、なんと4倍に!(※)
幼児の保護者の中には、「小学校に入ってから生活リズムを整えればいい」と考えている人がいるかもしれませんが、幼児期に乱れた生活リズムは小学校に入ってもすぐには直りません。
小学生の健やかな成長のためには、幼児期から生活リズムを整え、十分な睡眠時間を確保することが大切なのです。
※:小学生の睡眠習慣および食事習慣と学力との関連・小学生の睡眠・食事習慣と学力の関連/了德寺大学研究紀要 第6号37-50(2012)
生活リズムが夜型化した幼児は、早く寝かしつけようと思ってもなかなか眠ってくれないでしょう。
夜遅くまではしゃいで遊んでいたり、ベッドに入ってもぐずったり…。
遅く寝る習慣がついてしまった子供を早く寝かせるためには、乱れた生活リズムを整えることが大切です。幼児の寝つきを良くする方法をご紹介します。
夜になると眠くなるのは「メラトニン」という睡眠ホルモンが夕方から夜にかけて分泌されるためです。
メラトニンは、日中に分泌される「セロトニン」というホルモンが原料となって生成されますが、セロトニンをたくさん分泌するためには朝の太陽光を浴びることが大切です。
太陽光を浴びることで体内時計がリセットされ、セロトニンが多く分泌されるようになります。
セロトニンは精神の安定にも影響を与えるホルモンであり、セロトニンが不足すると抑うつ状態や感情コントロールが効きにくい不安定な状態になりがちです。
幼児の心を健やかに保つためにも、朝起きたらすぐに太陽光を浴びさせることを習慣化しましょう。
スマホやパソコンの画面から出ている光「ブルーライト」は、「今は日中だ」と脳に錯覚させてメラトニンの分泌を止めてしまいます。
また、スマホでの動画視聴などによって頭が覚醒し、興奮状態になりやすくなります。就寝時間の2時間程度前から、スマホやパソコンの画面を見せないようにしましょう。
人は、入浴後に温まった体の深部体温が低下していく過程で、自然に眠気を感じます。
ぬるめのお湯に少し長めに浸かると、身体をリラックスモードに切り替える副交感神経が優位になってスムーズに眠れるでしょう。
早く身体を温めようと熱いお湯に入ると、身体と脳が興奮状態になって目が冴えてしまうため注意してください。
就寝時間が近付いてきたら暖色系のライトに切り替えるなどして、部屋をだんだん暗くしていきましょう。
絵本を読んだり、のんびりおしゃべりをしたりして、子供がスムーズに眠れるひと時を一緒に過ごしてください。
毎晩、就寝時間の前に同じ行動を行うことで、子供が「もうすぐ寝る時間だ」と認識し、スムーズに眠ってくれるようになります。
例えば、入浴後に絵本を読んだり、照明を少し落とした部屋で子守唄や静かな音楽を聞かせたり。子供がリラックスして眠気を感じるような時間を作ってみましょう。
幼児の中には、家族が起きているとはしゃいでしまい、興奮して寝ないという子もいます。
その場合は、家族全員の協力が必要です。子供が眠るまでリビングのテレビを消す、家中の明かりを消すなど、子供がスムーズに眠れるように工夫してみませんか。
サーカディアンリズム(概日リズム)とは?体内時計の働きと生活リズムを整える方法をわかりやすく解説 >>詳しく読む
今回は、幼児の中でも特に生活の夜型化が心配されている2歳~5歳児の睡眠について、お届けしました。
小さな子供にとって、就寝時間が遅い・睡眠時間が短いことは身体や心の発達を阻害するだけでなく、学習能力にまで影響を及ぼすということがお分かりいただけましたか?
お子さんの将来のためにも、幼児のうちから生活リズムを整えてしっかり眠れるようにしましょう。
子供の寝つきが良くなると、保護者も寝かしつけに時間をとられたり、子供が寝ないことに対するストレスが軽減されたりして、気持ちに余裕が生まれてきます。
子育て中のイライラを少しでも減らすために、幼児がしっかり眠れる環境づくりを!
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