最終更新日:2024.2.19
「目覚ましをセットした時間よりも2時間以上早く起きてしまう」「朝方目が覚めて、二度寝できない」。それは、もしかしたら「早朝覚醒」かもしれません。
早朝覚醒は不眠症の症状の一つ。起きようと思っている時間よりも早く目覚める日が続くと、睡眠不足で疲れがとれなかったり、日中に強い眠気を感じることが増えたりして、仕事効率の低下や生活の質の低下を招く可能性も…。
今回は、睡眠アドバイザーとしての知識を織り交ぜながら、早朝覚醒の原因や治し方を解説したいと思います。
朝早く目覚めすぎて睡眠に満足感が得られていない人や不安を感じている人は、ぜひ最後まで読んで早朝覚醒を改善する参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品業界で数々の商品開発や販促に12年以上携わる。
睡眠不足に悩まされ続けた自身の不眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士」の資格を取得し、自らの知識と経験を基に機能性表示食品に登録された睡眠向上サプリ「睡眠体験」を開発。
現在、睡眠栄養指導士として多くの悩める方々へ睡眠の改善に関する情報を発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
「早朝覚醒」は不眠症の症状の一つで、予定している時刻よりも2時間以上早く目が覚め、その後二度寝できない状態のことをいいます。
朝早く目覚めることで睡眠時間が不足したり、睡眠の質が低下したりすることで、日中に強い眠気を感じることや倦怠感を感じることが増え、日常生活に支障をきたす人も少なくありません。
不眠症の症状
早朝覚醒の原因と予防法をお伝えする前に、まずは眠りのメカニズムについて説明します。
睡眠について知ることで、早朝覚醒だけでなく他の不眠症の症状に対しても有効な対策がとれるでしょう。
睡眠には深さが異なる2種類があり、浅い眠りが「レム睡眠」、深い眠りが「ノンレム睡眠」です。睡眠中は、約90分ごとにレム睡眠とノンレム睡眠が交替で訪れ、日中の疲労回復や脳への記憶固定、情報整理などを行っています。
入眠後、最初に訪れる約90分間のノンレム睡眠の深さが睡眠全体の質を左右するとも言われ、この間に成長ホルモンが分泌されたり、免疫機能が増強されたりして身体が健康的な状態へと整えられます。
それに対して「レム睡眠」は、身体をリラックスさせて疲労を回復させつつ、脳では記憶の整理や固定が行われています。
就寝してから目覚めるまで、深いノンレム睡眠から浅いノンレム睡眠、レム睡眠と交替を繰り返しながら覚醒へと至るのです。
睡眠の質が低下すると深いノンレム睡眠が減少し、浅いレム睡眠が増加。そのため、夜中や朝早い時間に目が覚めやすくなることにつながります。
眠りの質を高めるためには、“睡眠ホルモン”「メラトニン」の分泌が欠かせません。
メラトニンは“幸せホルモン”と呼ばれる「セロトニン」から生成されるホルモンであるため、セロトニンの分泌量が少ないとメラトニンの分泌量も低下します。
セロトニンが分泌されるのは日中で、朝日を浴びることで生成がスタート。脳を覚醒させる作用により、生体リズムのリセットの役目も果たしています。
その約15時間後から、セロトニンを元にメラトニンを生成し始めます。メラトニンの分泌量が多ければ、その夜の眠りは質が高いものとなるのです。
セロトニンにはもう一つ大事な役割があります。それは、自律神経を整えることです。
私たちの身体は、自律神経によって自分の意思とは関係なくあらゆる機能が調整されています。
自律神経には、日中の活動的な時に働く「交感神経」と、夕方からのリラックスした時間に働き始める「副交感神経」の2つがあり、この2つの自律神経が切り替わることで眠気を感じたり、朝になると活動的になったりするのです。
セロトニンには、交感神経と副交感神経をスムーズに切り替える手助けをする作用があります。
セロトニンが不足すると、自律神経の切り替えがうまくいかず夜になっても交感神経が優位な興奮状態が続くため、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなって早朝覚醒しやすくなったりします。
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早朝覚醒の背景には、年齢や生活習慣が深く関わっています。まずは、世代別に早朝覚醒の原因をみていきましょう。
早朝覚醒をはじめとした睡眠障害は、高齢になるほど多くなるのが一般的でした。
しかし、近年では小学生の子どもを含む若い世代でも、スマホの普及に伴うインターネット依存者が増加し、睡眠時間が短くなったり、睡眠の質が低下したりする人が増えています(※1)。
全国の中学校・高校から無作為に抽出した約10万人を対象にした調査では、不眠症有病率は19.3%、短時間睡眠は30.1%、睡眠の質の悪さは37.3%にのぼりました。
夜型化傾向は小学校高学年から徐々に進み、十分な睡眠時間がとれなくなることが指摘されています(※2)。
若い世代における早朝覚醒の原因として、こうした夜型化による体内時計の乱れが大きな影響を与えていると言えるでしょう。
※1:若者のインターネット依存/Jpn J Psychosom Med 55:1343-1352,2015
※2:大塚雄一郎. "ライフステージ別の睡眠疫学." ファルマシア 58.8 (2022): 763-767.
睡眠の長さや質は加齢とともに変化しますが、30代以降は性別によっても睡眠の内容に違いがあることが分かってます。
20代から40代の男女を対象にした調査で、20代では男女の徐波睡眠(深い眠り)の割合は同じであったのに比べて、30代では男性の徐波睡眠が減少。一方、30代の女性では変化は見られませんでした(※1)。
しかし、睡眠時間で比較すると40代~60代女性の睡眠時間は男性よりも短く、さらに更年期女性の42~57%が不眠を訴えているとの報告もあります(※2)。
日本産科婦人科学会では、閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間を更年期としています。
個人差が大きいものの、40歳代前半から50歳代後半の女性が更年期にあたると考えられ、この時期の女性は女性ホルモンの変動によって睡眠効率が低下し、不眠症状に悩まされる人も多いでしょう。
また、中高年の睡眠の質を低下させる要因に「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」があります。
睡眠時無呼吸症候群の有病率は、30代女性で5%弱、男性は10%程度。50歳代になると、女性は10%弱で男性は10~20%にのぼっています(※3)。
「睡眠時無呼吸症候群にかかるのは肥満気味の人」というイメージがあるかもしれませんが、日本人の睡眠時無呼吸症候群患者の多くは、標準体重もしくは軽度肥満であることが確認されています(※4)。
※1:香坂雅子. "女性の睡眠と健康." J. Natl. Inst. Public Health 64.1 (2015): 34.
※2:渋井佳代. "女性の睡眠とホルモン." バイオメカニズム学会誌 29.4 (2005): 205-209.
※3:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020/睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 編
※4:田村尚亮, and 高橋和久. "睡眠時無呼吸症候群 呼吸器内科の立場から." 順天堂医学 51.3 (2005): 311-321.
日本人の一般成人を対象とした調査で、不眠を訴える割合が60歳以上では29.5%にのぼりました。
また、寝床にいる時間のうち実際に眠っていた割合である睡眠効率も、若年者では90%を超えるのに対して65歳以上では80%以下にまで低下していたことが明らかになっています。
70歳代になると平均睡眠時間が7時間程度に減少しますが就寝時間が早くなる傾向があり、その結果として起きたまま寝床で過ごす時間が増加。
眠れないまま寝床にいることで焦りを感じ、不眠が悪化する人が多いことが分かっています(※1)。
また、ホルモン分泌や睡眠、食事などを調節する体内時計は加齢とともに前倒しで進み、生体リズムも前倒しになります。
その影響によって睡眠のリズムが乱れ、日中の居眠り時間が増加する代わりに夜の睡眠時間が減少。そこへ加齢に伴う頻尿や服用している薬の副作用が加わり、睡眠の質が低下して早朝覚醒を引き起こします。
※1:三島和夫. "高齢者の睡眠と睡眠障害." 保健医療科学 64 (2015): 27-32.
セロトニンを増やし、睡眠の質を高める方法とは? >>詳しく見る
次にご紹介するのは、全世代に共通する早朝覚醒を引き起こす主な原因です。
それぞれの内容について詳しく解説いたします。
ストレスが蓄積すると、交感神経が優位になることで脳が覚醒・緊張状態になります。そのため寝つきが悪くなり、就寝中に目が覚めやすくなります。
また、ストレスがたまるとセロトニンの分泌量も低下し、睡眠の質が低下し早朝覚醒にもつながります。
平日と休日の起床時間が2時間以上変動すると「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」と呼ばれる時差が起こり、体内時計を狂わせて就寝時間になっても眠れなくなります。
一度ソーシャルジェットラグが生じると、その後しばらくは体内のリズムがずれたままとなり、不眠症を悪化させて早朝覚醒する要因となります。
セロトニンは太陽光を浴びると分泌を始め、それをもとに約15時間後にメラトニン分泌を始めるため、朝日を浴びないとセロトニンが十分に分泌されず、夜のメラトニンも減少して眠りの質が低下。
それに伴って、早朝覚醒しやすくなります。
体内時計を狂いにくくするためには、規則正しい生活を送り生活リズムを整えることが大切です。
また食事の時間が不規則だと、就寝時間になっても交感神経が優位なままで寝つきが悪くなり、睡眠の質が低下し早朝覚醒につながります。
コーヒーなどの飲み物に含まれるカフェインは、身体中に分散して交感神経を刺激し、身体を興奮状態にします。
そのため、寝る前にカフェイン入りの飲み物を摂取すると、入眠しにくくなってノンレム睡眠とレム睡眠の規則性が失われ、早朝覚醒を引き起こす可能性が高くなります。
アルコールを飲むと寝つきが良くなるように感じられますが、眠り自体は浅くなって早朝覚醒するようになります。
さらに、毎晩お酒を飲んで寝ることでアルコールに対する耐性がつき、日に日に酒量が増えてアルコール依存症になる恐れも。
熱いお湯に浸かると交感神経が活発になり、脳が覚醒して眠りにくくなります。
寝つきが悪くなると睡眠全体の質が低下するため、早朝覚醒する原因となります。
睡眠をとる部屋が暑すぎる・寒すぎる、湿度が高すぎる・乾燥している環境は、睡眠には適していません。
明るすぎる部屋や外からの音が聞こえやすい部屋も、スムーズな入眠を妨げるでしょう。
早朝覚醒には、身体や心の病気が要因である場合が少なくありません。最後に、早朝覚醒を引き起こす病気についてです。
早朝覚醒をはじめとした不眠症に関係している病気には、高血圧や心疾患、関節リウマチ、アレルギー疾患などがあります。
中でも、40代以降の女性に多いのが「レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)」。夕方から夜にかけて脚にムズムズとした感覚や虫が這うような感覚が出現する症状です。
寝床に入って横たわっても「脚を動かしたい」という欲求に襲われて寝つきが悪くなり、眠りが浅くなって早朝覚醒を引き起こします。
レストレスレッグス症候群の原因の一つが鉄欠乏性貧血であるため、鉄分を摂取することで改善されるケースもあります。
睡眠障害と最も関係が深い心の病気が、うつ病です。
うつ病では80~85%の患者に不眠が認められています(※1)。また、女性の方が早朝覚醒型の不眠が多く認められ、抑うつ症との関連が強いという研究結果も(※2)。
セロトニンの不足はうつ病の一因でもあります。秋から冬にかけて症状が現れる「季節性情動障害(SAD)」別名「冬季うつ」も、日照時間が短くなることでセロトニンの分泌が減少することが原因とされています。
うつ病のほかにも、不安障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、さまざまな心の病気が眠りを妨げる要因となります。
※1:精神疾患にみられる不眠と過眠への対応/精神経誌(2010)112巻9号
※2:地域高齢者の睡眠と抑うつとの関連における性差/第59巻日本公衛誌 第4号
早朝覚醒する原因に、心当たりはありましたか?心当たりがあった人は、次にご紹介する早朝覚醒を治す・予防する生活習慣を実践してみてください。
それぞれの内容について詳しく解説いたします。簡単にできる方法だけを厳選しましたので、毎日続けて早朝覚醒を改善しましょう!
毎朝決まった時間に起きて朝日を浴びるとセロトニンの分泌が始まり、体内時計がリセットされます。
セロトニンが朝から大量に分泌されることで、夕方から分泌され始めるメラトニンの分泌量も増加。メラトニンの分泌量が増えると深く眠れるようになり、早朝覚醒しにくくなります。
ただし、予定よりも早く目が覚めてしまったタイミングで朝日を浴びると、その時間を基準として体内時計がリセットされてしまいます。
朝早く目が覚めてしまった日は、本来起きる予定の時間になってからカーテンを開けるようにしましょう。
適度な運動はストレスの解消になります。また、一定のリズムで体を動かすことはセロトニンの分泌を増やす効果があります。
眠りの質を高めるために、朝日を浴びながら軽いウォーキングを行うのがおすすめです。
食事の時間も一定にすることで、生活リズムが整いやすくなります。
そして睡眠の質を高めるため、セロトニンを増やすのに欠かせない「トリプトファン」と「ビタミンB6」が含まれる食べ物を摂るようにしましょう。
トリプトファンは牛乳・チーズなどの乳製品、納豆・豆腐などの豆製品、赤身魚やバナナ、キウイなどに多く含まれます。ビタミンB6を多く含む食品は赤身肉・脂身の少ない肉類などです。
食事のみでの改善が難しい場合は、睡眠の質をサポートするサプリメントの活用もおすすめです。
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腸内のビフィズス菌と乳酸菌は、ストレス反応と抑うつ障害に有益な効果があることが示唆される研究結果が報告されています(※)。
腸内環境を整えることで心が安定し、不眠症を改善できる可能性が期待できるでしょう。
スマートフォンの画面から発せられるブルーライトは、脳に「今は日中だ」と勘違いさせてメラトニンの分泌を止めてしまい、寝つきを悪くします。
SNSやニュースなど、スマホから得る情報も脳を興奮させて寝つきを悪くし、眠りを浅くして早朝覚醒の原因に。就寝前の約2時間はスマホを見ないことをおすすめします。
寝つきを良くするためには、身体の深部体温が下がることが大切です。
そこでおすすめなのが、就寝約2時間前の入浴。40度程度のお湯に10分~15分程度浸かって体温を上昇させると、入浴後に体温が下がっていく過程で自然と眠くなるでしょう。
ただし、42度以上の熱いお湯は交感神経を優位にするため、ぬるめのお湯で入浴するように気を付けてください。
睡眠前に簡単なストレッチやヨガのポーズを行うことで、こわばった肩や背中がほぐれてリラックス感が高まります。
特にヨガに欠かせない腹式呼吸は、リラックス効果が高いだけでなく、新陳代謝を高めたり、ストレスを解消したりする作用も。その結果、眠りが深くなって早朝覚醒しないようになります。
ある研究によると、人体と寝具の間にできる空間の温度と湿度を指す「寝床内気候」の快適な温湿度は、温度32℃前後、湿度50%(±10%)という結果が報告されています(※)。
寝室の温湿度をこの数値に近付ければ、睡眠に適した環境となり、朝までぐっすり眠れるでしょう。
また、外からの光や音が気になる場合は、遮光性や防音性のあるカーテンを取り付けるのもおすすめです。
※出典:環境温度と睡眠/睡眠口腔医学
アロマの香りの中でも、定番人気の「ラベンダー」は深いリラックス作用をもたらしてくれます。
ある実験でラベンダーの香りを含んだ湿布を30分間添付したところ、交感神経の緊張が低下して副交感神経の活動が高くなることが示唆される結果が出ました(※)。
アロマオイルを一滴たらしたティッシュやコットンを枕元に置くだけで、質が高い睡眠を得られます。
※:ラベンダーの香りと神経機能に関する文献的研究/関西医療大学紀要, Vol. 6, 2012
早朝覚醒が続いているようであれば、そのうち自然に治ることを期待するのは難しいです。
早朝覚醒は不眠症の症状の一つですので、原因となっている生活習慣の見直しを行い、それでも長期間症状が続き日常生活に困難を感じる場合は専門医への相談をおすすめします。
今回は、「朝早く目が覚めて、二度寝できない」という悩みを抱えている人に役立つ情報をお届けしました。
早朝覚醒を改善・予防するには、規則正しい生活を送り睡眠の質を高めることが重要です。簡単にできるものから取り入れ、ぐっすり眠れる毎日を目指しましょう。
睡眠の質を高め、深いノンレム睡眠をしっかりとる方法 >>詳しく見る