最終更新日:2023.10.11
最近、睡眠に関する話題をネットニュースや新聞記事で目にする機会が増えたと感じている人も多いのではないでしょうか?
寝床に入ってもなかなか寝つけない、寝られたとしても熟睡できなかったり、早朝に目が覚めたりといった不眠症状に悩む人が増え、睡眠に対する意識が高まっていることが影響していると考えられます。
睡眠についての話題が注目を集める中で、過眠症の一つである「ナルコレプシー」への関心も高まっているようです。
そこで今回は、睡眠アドバイザーとしての知識を織り交ぜながら、ナルコレプシーの症状や原因、治療法についてお届けしたいと思います。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
睡眠栄養指導士
小田 健史
健康食品業界で数々の商品開発や販促に12年以上携わる。
睡眠不足に悩まされ続けた自身の不眠体験から、一念発起して「睡眠栄養指導士」の資格を取得し、自らの知識と経験を基に機能性表示食品に登録された睡眠向上サプリ「睡眠体験」を開発。
現在、睡眠栄養指導士として多くの悩める方々へ睡眠の改善に関する情報を発信中!
<資格>
・一般社団法人 睡眠栄養指導士協会
睡眠栄養指導士® 中級
パーソナル睡眠アドバイザー®
・特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
健康管理士 一般指導員
目次
ナルコレプシーは、日中に何度も耐えがたい程の眠気を感じ、場所や状況に関係なく居眠りしてしまう過眠疾患であり、睡眠障害の一つです。
1880年にフランスの医師によって疾患として記載され、1960年に米国の医師が現在に繋がるナルコレプシーの概念を完成させました(※1)。
ナルコレプシーはその症状から「居眠り病」とも呼ばれ、ナルコレプシーの「ナルコ」は“麻痺、脱力”、「レプシー」は“発作”を意味するギリシャ語に由来しています。
ナルコレプシーの症状には強い睡眠発作のほかに、大笑いしたり驚いたり、怒ったりなど情動の激しい変化が引き金となって全身の力が抜ける情動性脱力発作(カタプレキシー)や、入眠の際に鮮明な悪夢を見る入眠時幻覚、いわゆる「金縛り」と呼ばれる入眠時麻痺といった症状が引き起こされるのが特徴です(※2)。
ナルコレプシーの4症状
ナルコレプシーを発症しやすいのは10代~20代の若年層で、発症のピークは14歳~16歳といわれています。男女差は特に認められていません。
また、ナルコレプシーでは片頭痛を合併することが多く、ナルコレプシー100例のうち、女性44.4%、男性28.3%に片頭痛の症状が認められました(※3)。
※1:井上雄一, and 作田慶輔. "過眠症の診断と治療: ナルコレプシーを中心に (セミナー,[特集] 眠りの科学)." ファルマシア 46.11 (2010): 1026-1030.
※2:近藤英明, 神林崇, and 清水徹男. "オレキシン神経系とナルコレプシー." 日本内科学会雑誌 95.4 (2006): 748-755.
3:鈴木圭輔. "片頭痛と中枢性過眠症." 神経治療学 36.3 (2019): 250-253.
ナルコレプシーの発症原因として、睡眠・覚醒サイクルの乱れとレム睡眠が適切に維持できないことが指摘されています。
ナルコレプシーの人は入眠してすぐにレム睡眠が出現する傾向が強く、入眠時幻覚や睡眠麻痺はそのために起こると考えられます(※1)。
近年では神経ペプチドの一つで、摂食行動を制御している「オレキシン」の欠乏がナルコレプシーの発症に深く関係していることが明らかにされました(※2)。
ナルコレプシー患者の約90%が、そうでない人に比べてオレキシンの濃度が著しく低いことが確認されています(※3)。
また、近年の研究でナルコレプシーの発症には遺伝的な要因が深く関係し、民族差があることも分かりました。
ナルコレプシーの有病率は人口10万人につき50人といわれていますが、日本人の有病率は12歳~16歳では10万人につき160人で、調査国の中で最も多いことが判明しています。ちなみに最も少ないのはイスラエルで、0.23人でした(※4)。
※1:高橋康郎. "睡眠・覚醒リズム障害." 精神保健研究 8 (通巻 41) (1995): 9-19.
※2:桜井武. "オレキシンによる睡眠覚醒の制御とその生理的役割." 体力科学 58.1 (2009): 8-9.
※3:宮川卓, and 徳永勝士. "第3回ナルコレプシー." 日本組織適合性学会誌 16.1 (2009): 39-48.
※4:大川匡子. "アジアにおける睡眠医療の現状と展望." 保健医療科学 61.1 (2012): 29-34.
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ナルコレプシーを根本から治せる治療法は、今のところ分かっていません。しかし、医師による適切な生活指導や薬の服用で、日中の強い眠気などを軽減できることが分かっています。
ナルコレプシーの症状を抑制するためには、規則正しい毎日を送ること、夜の睡眠時間をしっかり確保すること、短時間の昼寝をすることが効果的です。毎日同じ時間に起床・就寝・食事をすることで体内時計の乱れが改善され、睡眠の質が向上するでしょう。短時間の昼寝も、午後の眠気対策やリフレッシュに有効です。
また、オレキシンの欠乏がナルコレプシーの発症に関係していることから、オレキシン作動薬がナルコレプシーの治療薬として期待されています(※)。
※:櫻井武, and 長瀬博. "オレキシンの神経科学と創薬." MEDCHEM NEWS 26.4 (2016): 170-175.
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今回は、過眠症の一つであるナルコレプシーについて解説しました。
ナルコレプシーの代表的な症状である日中の強烈な眠気は、運転中や高所での作業中など場所や状況に関係なく生じるため、重篤な事故を引き起こす可能性もあります。ナルコレプシーの症状に当てはまるものがある人は、医療機関の睡眠外来を早めに受診した方が良いでしょう。
ナルコレプシーでなくても、日中に強い眠気を感じることが多い人は、睡眠の質を高める生活習慣を実践するのもおすすめです。良質な眠りを得られる方法は、下記の記事で詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてくださいね。